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漢方の基礎

カワムラ薬局 河村 昭

〈 第六回 〉

 科学性に乏しく理論の骨組みがないなどと批判されて、まともな扱いを受けない傾向がある日本の漢方に対して、中医学は少なくとも理論的な基礎がしっかりしているといわれる。それも3000年近い充分な熟成を経ているので批判する側としても簡単には手を出しかねるのではないだろうか。それは哲学的な土台のうえに築かれた確かさと安定を誇っているように思われる。

 中医学を学ぼうとするものは、どうしてもその哲学的な根拠を受け入れなければならないだろうか?そういうものを受け入れるわけにはゆかないが中医学とはどんなものか知りたい。できれば中医学の美味しいところはいただきたいと考える人があっても非難すべきではない。

 「中医学基礎」とか「中医学概論」といった書物を5,6冊確認したが全く一冊の例外もなく冒頭に中医学の哲学的根拠が述べられている。それは私が繰り返し話してきた陰陽学説であり、陰陽学説を更に発展させて陰陽五行説が説明されている。ところでこれ又例外なくこれら陰陽学説や陰陽五行説と抱き合わせて聞きなれない言葉が出てくる。それは「整体観」というものだ。これも私が調べたすべての中医学の書物に例外なく現れる言葉である。例外なくといったが、そういえば一冊だけ陰陽学説はおろか「整体観」のセの字も出てこない本があった。400頁を越える分厚い立派な中医学の案内書だが、やんぬるかな、この本は中医学研究と啓蒙に熱心な二人の著名な日本のドクターの書かれたものであった。

 陰陽学説はさておくとして、「整体観」とはいったい何であろうか。本場の中医学の本にはその意味するところが詳しく説明されている。曰く、人体とは「一個の整体をなしている。」だの「整体とは統一性と全体性の意味である」「人体は有機的整体である」「人体の各種の整体活動は健康を保証する根本条件である」「中医学においてはまず、人体を不可分の有機的な存在としてとらえる整体観を基礎においたうえで云々…」「人体内部の統一体観と人体と自然環境の間の統一体感(統一体に観を付したものだろう)」まだまだあるのだが、お読み下さって、理解されたであろうか?私にはどうも要領を得ない。人体が有機的整体をなしていることくらい何も中医学でなくたってわかりきったことではないか。

日本の先生があっさり無視された「整体観」にいつまでも拘泥することはいかがなものかと、自分でももてあます有様だった。九州のさる漢方研究会で、九大の医学部に留学中の中医師を招いて「舌診」の話を聞く集まりに出かけたことがあったが、講演のあとの質問の時間に私は胸につかえている疑問を尋ねてみた。「先生。中医学の整体観とはいったい何でしょうか。」「それは全体観のことです。」とその女性の中医師はにこやかに答えて下さった。「その全体観の観はたとえば世界観とか人生観とかと同じ種類の観でしょうか。」「人生観ではありません。全体観です。」先生は理解力のわるい日本人を気の毒そうに見ながら答えられた。舌診について質問したい人があとにつかえていたので私はひきさがらねばならなかった。(この項続く)

(広報誌「清流」第43号(1999.3.15)より)

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